研究概要 |
今年度の研究では,顔アイコンを見たときの脳活動をfMRIを用いて計測した.顔アイコンとは,コミュニケーションにおいて用いられる抽象顔であり,顔文字より抽象度が低く,人の顔に近づいたものである.実験では,複数の顔アイコンを創作した後,それを見た人の脳活動を計測した.雑誌やWEB上にある顔アイコンや顔のマーク,ロゴ等を集め,それらを参考に目,鼻,口などのパーツの変形や入れ替えにより,新たな顔アイコン60個を数人の学生に創作してもらった.顔文字より抽象度は低いが,なるべく抽象度を高くした刺激にするため,抽象顔の輪郭は無いものとした.作成した顔アイコンのうち,刺激として適切なものを選別するために,SchlosbergやRussellらによる表情分類研究を基に,作成した顔アイコンを表情の種類に分類した.従来までに,コミュニケーションで用いられる人の顔や顔文字の表情を弁別するときの脳が計測され,それらでは右下前頭回に有意な賦活が見られた.顔文字よりもわずかに抽象度の低い顔アイコンを用いたときにも,顔文字と同様に右下前頭回と帯状回の賦活が考えられた.実験の結果,右の下前頭回,右の紡錘状回,帯状回および側頭回付近に有意な賦活が見られた.顔文字の場合は右の紡錘状回が賦活しなかったことから,顔アイコンは顔文字より人の顔に近いが,表情の弁別がしにくい可能性が考えられた.また,顔アイコンの目や眉,口などによる誇張表現が生物的な動作を連想させ,側頭回領域付近を有意に賦活させたと考えられた.さらに従来研究と本結果との比較より,顔アイコンや顔文字は,他者と感情をお互いに理解したコミュニケーションとして用いられていると考えられた.
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