研究概要 |
本研究の目的は,パスワード・所有物・バイオメトリクスによる認証方式と異なる新たな認証手段として,ユーザの負担が小さく,複製の危険性がなく,認証に対する了承確認が可能な,聴覚記憶を用いた認証方式の実現可能性を検討することである.ユーザは認証者から同時提示される音刺激群の中に本人のみが鋭敏に検知できる刺激を確認し,その情報を認証者に返答する.本人以外には他の刺激との弁別が困難な刺激を用いることで,認証者は本人と偽者を弁別できるしくみである. 本年度は,本人固有の特徴刺激音として自声聴取音を利用について検討した.そのために自声聴取音の再現精度を高める.外部マイクロホンおよび肉伝導マイクロホンにて音声を同期録音し,この2種の音声を発話者本人に調節させた混合比で加算して自声聴取音を作成した.混合比の決定は,相異なる混合比で作成される2種類の音声を聴取させ,そのどちらが本来の自声聴取音に近いかを回答させ,その回答により次に提示する音声の混合比を近づかせ再度回答させる.これを繰り返し2種類の混合比の差が閾値以下となった場合にその混合比を自声聴取音作成のための混合比と決定する.このチューニングは,通常の空気伝導ヘッドフォンおよび,骨伝導ヘッドフォンにて行った.内省報告では骨伝導ヘッドフォンが通常のヘッドフォンに比べて自声聴取音がより再現されやすかった.作成された自声聴取音を用い,骨伝導ヘッドフォンにて複数話者が同時に発声している刺激を聴取したときの,自声聴取音の存在に気付く反応速度,および正解精度を,自声聴取音発声者本人,および他人に対して調べた.詳細な検討がさらに必要だが,提示する同時発話数の増加に対する正解精度の低下・反応時間の増加で本人の反応が他人の反応に比べ緩やかであることが観察できた.ただし,この傾向は女性の場合には小さかった.この結果を受け,来年度は,ユーザー認証システムとしての構成を検討する.
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