本研究では、テーブルを囲む少人数参加者の合議に焦点を当て、知識の非対称性を有する参加者間のコミュニケーション様態と議論結果との関連性を分析することを目的としている。 本年度は、結合型の課題遂行プロセス、すなわち参加メンバ全員の納得・合意によって課題が達成されるタイプの協同を対象とし、各参加メンバの選好要因が動的に変化する場合は、どのような支援が有効であるかを実験を通じて明らかにした。まずこのような状況下での協同の様子を観察するために、社会心理学分野で合意形成プロセスの分析に用いられる「スリーテン」課題をベースにして拡張した「ワンナイン」課題を考案した。この課題はある背景の下で提示された9つの代替案集合の中から、対話を通じて1つの案を選択する課題で、各参加メンバに与えられる選好誘因(=効用)が時間とともに変化するようになっている。この課題を用いて(1)参加メンバが全体として得られる効用を各メンバにフィードバックする、(2)事前に代替案の評価をシミュレートすることで選好誘因が動的に変化しないようにする、という二つの対話支援の仕組みを比較した。この結果、(1)前者の支援を行った場合は各被験者が利他的に振る舞い、全体の効用がより高い案で合意する、また議論に要する時間も短くなる、(2)後者の支援を行っても、利害関係が相反する状況下では合意を促すことに寄与しない、という知見が得られた。
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