本研究では、自然知能の観測を目的として構築したマルチモーダル幼児行動コーパスの方法論に基づき、音声データ収集・喃語解析システム開発・喃語に着目した行動分析を実施し、音声言語獲得過程の計算機モデル表現の検討を通して、コモンセンス推論に役立つセオリーの提案を狙った。平成20年度は、前年度に構築した喃語に関するマルチモーダル行動記述を持ったコーパスに基づいて、コモンセンス知識の構築に繋がる喃語発達過程のモデル化を検討した。以下、テーマ別に成果を述べる。 (1) データ収集 : 教室環境での音声データ収集を同じ幼児で継続して進めた。 (2) システム開発 : 前年度に検討したマルチモーダル行動記述項目から、喃語の発達過程を表現するのに有用となる特徴に着目し、ラベリング作業を効率化する仕組みを検討した。具体的には、コーパスから場面状況が揃った事例を抽出して発達変化を観測可能にするため、発話時の幼児の心的状態を表現する感情ラベリングを導入した。感情ラベルによる事例検索機能を実装し、ラベリング支援システムを改良した。 (3) 喃語観察 : 感情ラベルを手掛かりに、発話意図の観点から事例を整理し、音声言語獲得過程を分析した。前年度開発した音声波形・スペクトル・基本周波数といった音声情報を、映像にリンクさせて提示する機構、及び特徴的な箇所に手動でラベリングできる機構を駆使し、詳細分析を行った。例えば、心的状態が「嫌悪」の発話が、「いや」の一語文から「いやいや」という繰り返し発声、韻律を変化させた強調発声、「いや」以外の語彙による二語文へと変化する過程などが観測できた。その他、「疑問」や「拒否」の意図の発話についても興味深い発達変化が分析できた。さらに、成長に伴って相手や周囲状況によって言い方を変える様子など社会性の発達に関する分析結果も得られ、発話を手掛かりとした自然知能のモデル化に繋がる知見を多く獲得できた。
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