日本のアニメーションにおける善玉と悪玉の声は日本文化における良い人物、悪い人物の声のステレオタイプを反映すると考えられる。研究代表者は現在までに、日本のアニメにおける善玉と悪玉の声を音声学者の内省に基づく受聴分析によって記述し、その声を刺激音として聴取実験を行うことによって、日本のアニメにおける典型的な善玉と悪玉の声のステレオタイプの特徴記述を試みてきた。本研究ではその結果に基づき、より多様な声を実験・分析の対象として、日本文化における様々な人物像と声の音声的特徴との対応を、音声学的手法を用いて記述することを試みた。さらに、機能的磁気共鳴画像診断装置(fMRI)を用いた音声器官の生理的観察や音響分析を補うことにより、より客観的で一般化できる結果を得ることを目標とした。最終年度の本年度は今までのまとめを行うべく、1.様々な分野で関心が持たれるテーマでありながら、分野を横断的に広く概観した文献が発表されていない、音声に基づく印象形成のテーマについての文献調査のまとめと、2.音声に基づく印象形成と関わりの深い「役割語研究」の情報を海外に発信する論文の執筆(共著)を主に行った。1.では音声に基づく印象形成の過程においても、一般的な社会的認知・対人認知において認められる普遍的な2次元(warmthとcompetence)が重要な役割を果たすと仮定し、動物の発声において抽出できる次元とも比較し、今後合成音声を用いて仮説の検証が必要であることを論じた。2.は国際雑誌に投稿し、現在査読中である。
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