複素数信号の情報処理に適した方法論の一つである複素ニューラルネットワークは、工学で用いられる光、音、電磁気などの振幅成分と位相成分をもつ波動現象と相性が良く、リモートセンシング、レーダ、量子デバイス等への応用研究が活発に行われてきている。しかし、その理論的枠組みはまだ十分に確立されたとは言えず、実数ニューラルネットワークとの相違点も明らかではない。本研究の目的は、複素ニューラルネットワークを非線形システムとしてとらえ、その数学的性質を体系的に理解するとともに、ネットワークの性能を向上させるための実効的な提案を行うことである。本年度は、昨年度に提案した連続型の複素活性化関数を用いて複素ニューラルネットワークを構成し、従来の離散型の複素活性化関数を用いたネットワークだけでなく、形態学的連想記憶モデルや実数ニューラルネットワーク等の他手法とも性能比較をおこなった。その結果、多階調画像処理の復元(ノイズ除去)において、元画像に印加されるノイズの種類によっては(具体的には一様ノイズとガウシアンノイズの場合に)、提案手法が最も優れているという結果を数値実験によって示した。これは、複素活性化関数の非線形性を制御することによって実現される性能向上を意味する。また、提案した複素ニューラルネットワークを利用した、グラフ彩色問題の発見的解法を提案した。ベンチマーク問題へ適用して、エネルギー関数の最小化に基づく従来方法と比較した結果、グラフのノード数が比較的少ない例題の一部に対しては、提案手法の方が良い結果を与えることを示した。以上のように、複素ニューラルネットワークの性能向上について一定の成果を得ることができ、当初の目標を達成した。
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