複数ニューラルネットワークは、素信号を処理するためのソフトコンピューティング技術の一つである。振冨と位相という二つの物理量を一つの複素変数として扱うことが、それぞれに対応する二つの実数変数として扱うことに比べて、ニューラルネットワークによる情報処理の上でどのような利点があるのかを明らかにすることが期待されている。前年度までの研究で、複素ニューラルネットワークに対する新しい活性化関数を提案した。これは、従来の複素活性化関数の離散的非線形性を連続的非線形性に変更したもので、これを用いるとネットワークダイナミクスがエネルギー関数の局所的最小点にトラップされる確率が減り、従来の複素ニューラルネットワークより良い連想記憶能力をもつことが分かった。そこで、本年度は、この連続的非線形性をもつ微分可能な活性化関数を用いることで、階層型複素ニューラルネットワークの最急降下法に基づく誤差逆伝播学習アルゴリズムを提案した。提案手法を、実数ニューラルネットワークの学習アルゴリズムおよび複素ニューラルネットワークの既存の発見的学習アルゴリズムと比較するため、関数近似の数値実験を行った。まず、連続関数に関しては、すべてのニューラルネットワークが学習に成功したが、訓練誤差と汎化誤差は提案手法の方が小さかった。次に、不連続点をもつ関数に関しては、複素ニューラルネットワークのみが不連続性という特徴を学習できた。ただし、二つの複素ニューラルネットワークの学習アルゴリズムを比較した結果、提案手法の方が訓練能力も汎化能力も高いことが分かった。このアルゴリズムは位相応答関数の推定などに応用可能である。以上より、複素ニューラルネットワークの理論と応用について一定の成果を得ることができ、当初の目標を達成した。
|