従来、主に実数値で考察されてきた独立部分空間分析(ISA)を拡張して、複素独立部分空間分析の問題を考察し、リーマン幾何的最適化法に基づく独立部分空間分析の学習アルゴリズムを提案した。 複素独立部分空間分析では、d組の信号群に分かれるN個の信号を最初に想定し、以下の仮定を置く。即ち、同じ信号クラスに属する信号同士は統計的に従属で、異なる信号クラスに属する信号は互いに統計的に独立であるとする。この仮定は全ての信号が統計的に独立であるとする独立成分分析の仮定を緩和したもので、実信号を扱う上でより現実的な仮定だといえる。このように仮定されたN個の信号が線型に重畳されて、N個の出力として与えられた時に、先に仮定した信号の統計性のみを用いて元のK個の信号を復元せよ、というのが複素独立部分空間分析の課題となる。(ただし信号の順番と、パワーは求めることができないという不定性は残る。)複素独立成分分析は複素シュティーフェル多様体(正方でない複素ユニタリー行列全体)上の最適化問題を解くことに帰着したが、複素独立部分空間分析においては、統計的に従属な信号の存在から、複素シュティーフェル多様体よりもより複雑な複素旗多様体上の最適化問題を解く必要が生じる。複素多様体を実旗多様体の全測地的多様体とみなすことにより、複素旗多様体上のリーマン幾何的最適化法を提案した。 信号処理で従来扱われてきたのは、複素多様体のうち、複素シュティーフェル多様体と複素グラスマン多様体であり、最適化手法では、専ら自然勾配法とニュートン法が適用され、複素旗多様体、及びリーマン幾何的共役勾配法は考察されてこなかった。今年度の研究で、複素独立部分空間分析を解く上では、多様体上の測地線を用いた2つの最適化法(測地線探索法とリーマン幾何的共役勾配法)のうち、リーマン幾何的共役勾配法が優れた性能を持つことが確認された。
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