本研究は、これまで実態が詳らかでなかった特別支援学校の学校図書館について、その現状を明らかにするとともに、課題を総合的に考察することを目的としている。平成20年度は、前年度に実施した全国の特別支援学校を対象とした質問紙調査の結果を踏まえて、数校を事例として抽出し訪問調査した。事例調査を通して、質問紙調査で示された結果がより具体的に把握できた。 以上を踏まえて、研究の全体的なまとめを行った。特別支援学校における学校図書館の現状と課題としては、簡潔に述べれば、次の2点に整理できる。(1)特別支援学校と小学校、中学校、高等学校の学校図書館とを比べると大きな差がある。特別支援学校の特殊性は、一つの学校のなかに、小学校相当から高等学校相当まで、すなわち、小学部、中学部、高等部が設置されていることである。ところが、現状では、蔵書冊数一つをとっても、小学校の水準をさえクリアできていない。(2)特別支援学校の校種間、本校と分校の間、そして設置者(国立、公立、私立、及び公立であれば設置している都道府県)の間で、それぞれ、現状に大きな開きが生じている。特別支援学校と一括りしてしまうと見逃されてしまう多くの問題が現状にはあることが、今回の調査では明らかとなった。とりわけ、知的障害特別支援学校の学校図書館は著しく低い水準に留まっており、そこには、単に人的体制や予算の不十分さ等の制度やシステム的なレベル以前のもっと根本的なところ、すなわち、視覚障害や聴覚障害に比して、知的障害のある児童生徒とその教育に学校図書館がどう関わっていったらよいのかという部分が、これまで学術研究でも現場の実践レベルでも十分に考究されておらず、共通理解されるに至っていないことが大きく影響していると考えられる。特別支援学校の学校図書館の充実には、行政、現場、研究者の三者が協力し、これらの課題の解決に取り組んでいくことが必要である。
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