本研究では、北西ケニアにおけるモバイルメディアの普及とその影響による社会変容に関する実証的調査をおこなっている。全世界的に携帯電話の利用はいまだに拡大している。2000年以降の普及拡大の大きな要因はアフリカ地域におけるネットワークの拡大にある。調査者のフィールド、トゥルカナは、無文字文化であり、電気やガス、水道といったインフラのない場所で牧畜をおこなって生活をしている人びとが多くいる。こういった場所においても、携帯電話やインターネットの利用は、可能となりつつある。これは、活版印刷以来の社会変容を促す可能性がある。2004年のInternational Telecommunication Unionの報告によれば、ケニアの人口に対する普及率は、約15%であったが、本調査において、2007年には20%強の利用者がいることがわかった。これは、固定電話の普及が1%未満であった同地域において、急速な普及であるといわざるをえない。当然、人びとのコミュニケーション様式、生活行動などもドラスティックに変わった。 この変容の詳細を明らかにするため、インタビュー調査と資料調査をおこなった。この成果から、トゥルカナにおいて、携帯電話を所有するもの同士は、コミュニケーション回路が重層的になることによって、交渉の機会が増加する可能性を指摘できる。 しかし、トゥルカナのコミュニケーション文化、「ねだり」が、対面的コミュニケーションにおける約束履行可能性に支えられていたことを考えあわせるならば、リモート・コミュニケーションにおいて、「ねだり」の意味変容がおこるかどうか、この先も詳細なデータ収集を必要とする。
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