本研究では、北西ケニアにおけるモバイルメディアの普及とその影響による社会変容に関する実証的調査をおこなっている。今年度の調査においては、ケニア国内の携帯電話のキャリア企業がこれまでの2社から4社へと増加しており、モバイル送金ザービス、M-PESAの利用の拡大も顕著であった。インターネットの利用も利便性が増し、モバイルインターネットの利用者も増加している。 上記のような状況は、ナイロビなどの都市に顕著にみられるが、調査者のフィールド、トゥルカナは、電気やガス、水道といったインフラのない場所で牧畜をおこなって生活をしている人びとが多くいる。こういった場所においても、携帯電話やインターネットの利用は、可能である。経済的問題を克服することにより、飛躍的に利用者が増えることが予想されている。これは、活版印刷以来の社会変容を促す可能性がある。 この成果から、牧畜社会の携帯電話利用は、貧困や闘争などの局面において重要な役割を果たすことがわかった。また、トゥルカナのコミュニケーション文化、「ねだり」が、対面的コミュニケーションにおける約束履行可能性に支えられていたことを考えあわせるならば、リモート・コミュニケーションにおけるM-PESAの役割の重要性が今後増していくことが予想される。 M-PESAの利用者の多くは、2009年の初期からはじめている。これまで、現金を持ち歩く、もしくは郵便の送金システムを利用するより他なかった多くの人びとが一瞬にして送金する利便に浴することになった。送金の限度額は非常に少額であるが、このサービスを提供するサファリコムケニアは、大成功をおさるた。2010年度にはどのような展開をみせるのか、調査を継続していく必要がある。
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