デザインの基礎的能力に、構成力というものがある。構成力とは、要素の属性を調整し、一貫した全体像を描くための能力である。デザイン教育の分野では、伝統的に、この能力を平面構成と呼ばれる課題(ここでは幾何図形を要素とする課題と定義)を通してトレーニングしてきた。本研究課題では、認知科学における類推研究の成果を生かした平面構成の学習支援システムを開発することを目指す。平成19年度は、以下のような研究を実施した。 (1)平面構成の学習環境を構築 学習者へ手本を提示し、それを参考とした平面構成の制作ができる環境を、計算機上に構築した。 (2)類推を評定する計算手法の開発 上記環境上で構成された作品について、手本との類似度を計算する手法を開発した。具体的には、作品を記号的表現へ変換する自動的な手法を開発し、それを用いて表層的類似度(属性の頻度を利用した類似度)と構造的類似度(関係構造を利用した類似度)を計算する手法を開発した。 (3)実験と分析 陶芸作家が、本研究における課題環境上で作品を制作した。実験において、被験者は、作家の作品を手本とし、オリジナルの作品を制作した。被験者の制作は2回繰り返された。分析では、被験者の作品について、手本となった作品との表層的類似度と構造的類似度を計算した。結果、(1)被験者がはじめに制作した作品は、字義通りに類似したもの(表層的にも構造的にも類似したもの)が多かったこと、(2)2回目の制作では、手本と表層のみが類似しているもの、構造のみが類似しているものが存在したことわかった。つまり、2回目の制作では、手本の表層的特徴に注目した被験者と構造的特徴に注目した被験者が分離した。この結果は、実装された類似度計算手法が、繰り返しによる被験者の観点変化をとらえることに成功したことを示す。
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