研究概要 |
本実験の目的は、脳波/脳磁図計測により、音の補完(聴覚誘導)、特に音声の補完にかかわる事象関連電位(ERP)を明らかにするとともに、神経応答のコンピュータシミュレーションを用いて、音声に対する事象関連電位をモデル化し、音声の符号化に関連した神経機構を明らかにすることである。特に、音声の時間周波数情報が、聴覚皮質の神経集団によってどのように符号化されERP成分として現れるかについては、これまでほとんど明らかになっていない。本年度においては、昨年度までの研究成果を踏まえ、音声に対するERP成分の大部分はその音声の振幅変化によって引き起こされる2次線形システム応答であるという仮説を立てた。この仮説に基づき、純音刺激に対して観察されたERP成分(N1, P2)を用いて、音声刺激に対するERP波形を予測する計算モデルを作成した。純音に対するERP成分ごとに構成した並列な2次線形システムへ音声の振幅変化を与え、実際に頭皮上で観察されたERPと比較したところ、モデルの予測能力が確認された。特に、約5Hzの周波数成分からなる陰性成分と、約2Hzの周波数成分からなる陽性成分が、音の振幅成分の検出と遅い振動形成にそれぞれ寄与していることが示された。本年度における研究結果の意義は、聴覚誘導の研究を通じて音声に対する符号化処理の基礎を調べ、計算論的神経モデルにより音声に対するERP成分を予測した結果、予測が可能であるという画期的成果が得られたことである。本成果から、並列な2次線形システムとして再現可能な各神経集団の活動が音声符号化の基礎になっているという重要な示唆が得られた。本結果は、聴覚神経系が音節を強調的に検出するためのフィルタ機構として働いていることを示唆しており、本成果は、音声の意味的・統語的処理の理解へ向けた新たな脳研究の発展に貢献すると思われる。
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