本研究は、動詞が比喩的に解釈される文(以下、動詞比喩)をとりあげ、その理解プロセスについて実験を用いて明らかにすることを目的としている。そのために、本年度は、まずコーパスを用いた研究なども含めた先行研究の精査を行った。その結果、現在までのところ動詞比喩の理解プロセスについて提案されているモデルは2つから3つ程度に留まってはいるが、いずれも基本義からの意味変容がモデルに組み込まれている点は共通していた。一方で、コーパスや作例を用いた言語研究では動詞の用法についての事例分析が蓄積されており、基本義と比喩的意味との関連が指摘されている。ここから、基本義からの意味変容として動詞比喩を捉えた上で、理解プロセスをモデル化することにはある程度の見込みがあると考えられる。 また、本年度はコーパスや日本語格フレーム辞書等の言語資源を利用して、動詞の語義の頻度を推定する調査を行った。細かな語義について頻度を推定することは困難であったため、実験材料としての使用を優先し、頻度が特に高いと考えられる語義と低いと考えられる語義に関してのみ頻度の調査を行った。その結果、各動詞が慣用的な比喩としてどの程度頻繁に用いられているかはまちまちであり、基本義と見られる用法よりも慣用比喩的用法の方が頻度が高いと考えられる動詞も見受けられることが明らかになった。 さらに、これらの調査結果と既存の資料を合わせて実験材料を作成し、理解可能性、比喩性等の評定実験を行った。これにより、現在までのところ、より抽象的な意味を持つ動詞の方が、より特定的な意味を持つ動詞に比べて、比喩としての読みが生じやすいことが示唆される結果が得られている。また、動詞の意味の脱曖昧性に対して、共起する名詞句の語順が影響するという結果もある。これらの成果については、来年度以降、学会発表等で報告していく予定である。
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