研究概要 |
2007年度,ガラスの個体認知について,行動学と神経解剖学の両面から検証を行い以下の知見を得た。 1.行動実験による検証: (1)優劣関係形成における個体認知の利用 餌をめぐる状況において,ガラス14羽による計91組の一対対戦を各組5回行ったところ,安定かつ明瞭な優劣関係が形成された。第1戦目においてのみ激しい闘争が見られ,以降の同一個体との対戦では,第1戦目で形成した優劣に従い,ほとんど闘争をすることなく,速やかに勝敗が決した。しかし,対戦相手が異なる場合は再度激しい闘争を示した。このことは,ガラスの優劣関係形成において,過去の勝敗と対戦相手を区別的に記憶している,すなわち,個体認知を行っていることを示唆する。 (2)接触音声(コンタクトコール)による個体認知の検証 個体認知の心理メカニズムを解明するために,コンタクトコールに着目し,個体間の声色の違いを調べるための声門分析,及び,音声弁別能力を調べるためのGo/No-goオベラント実験を行った。声門分析の結果,コンタクトコールの一種である単発性音声が個体間で明瞭に異なることを見出した。また,行動上これらの音声の弁別の可否をオベラント課題にて調べた結果,弁別が成立し,また,同一個体の新規同種音声への転移も見られた。これらの結果は,ガラスが単発性のコンタクトコールを用いて個体認知をしている可能性を示唆する。 2.神経解剖学による検証: がラスの大脳の詳細を脳地図として世界で初めて描出作成した。その特徴として,哺乳類の大脳皮質連合野に該当する脳領域がよく発達していることを見出した。これは,大きさという視点において,近年報告されている霊長類に匹敵するとされるガラス認知機能が,脳の面からも,その可能性を十分に秘めていることを示したものである。
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