研究概要 |
形態視の情報処理について考える上で,物体形状の脳内エンコー様式を解明することは最も重要な事の1つである.物体領域の境界の形状を直接エンコードするという従来の考え方に対し,物体輪郭に中心軸変換を施すことで得られるスケルトンが脳内の形状のエンコーディング様式であるとの考え方が実験的知見より示唆されている(Kovacs & Julesz,1994).しかし,仮にスケルトンがエンコードされるにせよ,それが輪郭自体のエンコードに対するアドバンテージは何かについては知られていなかった.そこで本研究では生物的パターン認識神経回路モデルであるNeocognitron(Fukushima,1980)を用い,閉曲線状の物体輪郭と,それらから抽出されるスケルトンの2種類のパターンを別々に学習・認識させた際の相違を計算機実験で調べた.その結果,変形に対する認識のロバスト性は変形のタイプによっても変化し,必ずしもスケルトンが優れるとは言えない結果になったが,形状のエンコードに必要な神経細胞リソースはスケルトンのほうが少なく,スケルトンの経済性が見出された.一方,図地分離の脳内表現であるborder-ownershipに関する実験では,輪郭に対する図方向の側に輪郭位置がシフトして知覚されるという特性があることが2次元及びRDSによる3次元刺激を用いた心理物理実験を通して得られた.これが一部の錯視現象の源にもなっている可能性も示唆された.また,実験的知見を説明し得る神経回路モデルの自動生成の研究に関しては,従来取り組んできたMPIライブラリを用いたPCクラスタによる並列計算の他の可能性として,近年着目されつつあるGPUを用いた並列度の高い計算機実験についても検討を進め,図地分離神経回路モデルのGPU上計算機実験を実現できた.今後の効率的モデル生成の基盤となることが期待される.
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