本研究の目的は、ヒト及びサルの視覚系において、物体表面の材質についての情報がどのように抽出されるのかについて明らかにすることである。材質の知覚・判別に関わる領域は、色・形状・テクスチャのいずれか、またはそれらの組み合わせに対する選択性を備えていると考えられる。そこで、本年度においては、fMRIを用いて、2頭のサルについて、1.無彩色の物体自然画像とそれらの位相スクランブル画像を用いた形状・テクスチャ選択的反応の計測、2.モザイク状の単純な形状の有彩色刺激及び無彩色刺激を用いた色選択的反応の計測、さらに一頭のサルについて3.物体・風景自然画像の有彩色刺激及び無彩色刺激を用いた色選択的反応の計測を行い、サルの視覚皮質、特に下側頭皮質における色・形状・テクスチャ選択性について検討した。形状・テクスチャ選択的な反応は、V2-V4野や下側頭皮質外側面を中心に広い領域に観察された。一方、強い色選択的反応は、単純な形状の刺激を用いた場合、V1-V4野、及び下側頭皮質前部及び後部外側面のそれぞれ限局した小領域において観察された。これら下側頭皮質における色選択的な領域は、テクスチャ選択的な反応を示す領域とは後部外側面の一部を除き大きな重なりは見られなかった。一方、自然画像刺激を用いた場合、強い色選択的反応は下側頭皮質上部外側面の形状・テクスチャ選択的な反応を示す領域において観察された。すなわち、この領域は、自然な形状・テクスチャ及び色彩分布をもつ画像に対して強い反応を示す。3つの実験の結果は下側頭皮質が形状・テクスチャ・色彩に関する選択性の異なる幾つかの領域で構成されていることを示唆しており、今後、これら領域が材質知覚の情報処理にどのように関わっているのかを明らかにしていくことを計画している。
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