本研究の目的は、ヒト及びサルの視覚系において、物体表面の材質についての情報がどのように抽出されるのかについて明らかにすることである。材質の知覚・判別に関わる領域は、色・形状・テクスチャのいずれか、またはそれらの組み合わせに対する選択性を備えていると考えられる。前年度においては、サル下側頭皮質(IT)が形状・テクスチャ・色彩に関する選択性の異なる幾つかの小領域で構成されていることを示唆する予備的知見を得た。そこで本年度は、サルのITにおける情報表現に関する検討をさらに進めた。形状及び色彩構成の異なる複数の刺激(特に、視覚研究で多用される正弦波状二色刺激とモザイク状多色刺激)を用いて、皮質上における色選択的反応分布の詳細な比較を行った。その結果、(1)色構成が同じ(無彩色)で形状が異なる刺激はそれぞれITの広い領域を賦活するがその空間分布には違いがあること(2)それら刺激に色が付加された場合、それぞれの一部の小領域の活動が強められることが明らかになった。形状情報は分散的である一方、色彩情報は特定の領域に集中していることが示唆される。このような情報表現が材質情報表現の基礎になっているのではないかと考えられる。さらに、本年度において、表面材質情報の表現を実験的に明らかにしていくために必要である材質画像データベースの作成を行った。種々の材質の表面サンプルを収集し、3次元CG技術を用いて、照明環境や形状が同一で表面材質のみが異なる物体の画像を合成した。10種類の材質カテゴリ(金属・プラスチック・皮・肌・毛・ガラス・石.木・樹皮・布)を含んでおり、また、各カテゴリは10以上の異なる材質で構成されている。このように多くの種類の材質で構成され、3次元形状などの視覚特徴が制御可能な視覚実験用の画像データベースはこれまでになく、本年度に実施できなかったものの今後の心理物理学的・生理学的研究において非常に有用であると考えられる。
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