視覚情報の知覚過程に知識や経験がどのような影響を与えているのかを調べるために実験課題に将棋を用い、将棋の棋力と駒組を見た時の脳波活動の関係を解析した。実験参加者は上級者(アマ四段程度)、中級者(アマ初段程度)、初心者の3グループから構成されており、10枚程度の駒から構成された定跡形(将棋において意味のある形)とそれをデタラメにした駒組をそれぞれ提示した。脳波活動を時間周波数領域上における振幅変化で評価したところ、初心者は駒組提示後300-400ミリ秒後に5HZ帯域の活動を頭頂部と前頭部で示した。この活動は定跡条件とデタラメ条件では違いはなく、初心者は定跡とデタラメを区別するほどの将棋の知識を持ち合わせていないことを脳波活動のレベルで示唆している。一方、中級者・上級者と棋力が高くなるにつれ頭頂部の活動の潜時は早くなった。これは将棋の知識が知覚情報処理を促進することを示唆している。また前頭部の活動は、中級者は初心者と同様の活動を示したが、上級者はデタラメ条件では活動を示さなかった。将棋に関する知識と経験が豊富になるとデタラメな駒組に対して違和感を感じるようになるが、このような違和感を感じる刺激に対しては前頭部は反応しないことを示唆している。昨年度の研究では、時間周波数領域上における位相固定指標で脳波を評価すると上級者の頭頂部は定跡形に対して選択的に約150ミリ秒の潜時で反応することを示した。これらの結果を総合すると、将棋に関する知識と経験を十分に有する上級者はそうではない中級者・初心者とは駒組の知覚過程が異なることが明らかになった。
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