本研究は、混合正規分布などを含む混合位置尺度分布モデルにおいて、パラメータ空間に制限をつけた最尤推定や、罰則付きの最尤推定などを扱い、その推定量の一致性や漸近有効性などの漸近的な性質を明らかにするものである。平成20年度においては、混合位置尺度分布モデルについて、その尺度母数に対する罰則付き尤度のいくつかの漸近的な性質を明らかにすることができた。まず、罰則付き最尤推定量が強一致性を持つことを厳密に証明することができた。さらに、強一致性の成立のために必要な罰則の強さについても、明らかにすることができた。この罰則は、標本サイズの増加とともに緩めることもでき、非常に広いクラスを含んでおり、強一致性が成り立つかどうかのチェックも容易である。また、尺度母数そのものに罰則を入れると単位の取り方に依存してしまうため、尺度母数同士の比に対して罰則を入れた最尤推定量を考えた。そして、これに対しても同様の漸近的な結果を得ることができた。これらの結果により、Hathaway(1985)やMclachlan and Peel(2000)などによって言及された未解決問題をより広いクラスのモデルに対して肯定的に解決することに成功した。以上の理論的な結果を踏まえて、尺度母数に対する罰則付き最尤推定のアルゴリズムと、尺度母数の比に対する罰則付き最尤推定のアルゴリズムを、EMアルゴリズムを基に導出した。そして、これらのアルゴリズムが数値実験で適切に動くことを確かめた。これにより、従来の最尤推定では破綻してしまう可能性があるパラメータの推定において、その危険性を克服した推定が可能になった。
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