研究概要 |
今年度はコンピュータネットワークトラフィックの確率的予測を行うための基礎技術として分位点回帰分析に関する基礎的検討を行った.分位点回帰分析は,回帰分析の問題設定において,説明変数xが与えられたもとでの被説明変数yの分位点を推定する方法論である.分位点回帰分析を用いることにより,一定期間前の観測系列から将来のネットワークトラフィック量の確率的予測が可能となる.特定のサンプルに対して複数のオーダの分位点回帰分析(例えば,0.1,0.25,0.5,0.75,0.9分位点)を行うと,互いの整合性がとれなくなってしまう現象がある.この問題の顕著な例は分位点交差問題と呼ばれるもので,t1<t2対し,特定のxの元で,p(y|x)のt1分位点の推定値がt2分位点の推定値よりも大きな値をとってしまうというものである.このような不適切な現象を回避するため,本研究では母集団が位置尺度モデル(location scale model)に従うことを想定したときの分位点回帰分析について考察した.位置尺度モデルのもとで異なる分位点回帰関数が持つべき性質を特定し,その性質を利用した推定法を考案した.モデルが線形の場合と非線形の場合の両者におけるアルゴリズムを構築した.前者の場合は逐次線形計画法として,後者の場合は4層の多層パーセプトロンとして実装できることがわかった.このアプローチを用いることにより上述の問題点を回避することができた.また,さまざまな数値実験の結果,従来のものよりも汎化性能が向上することを確認した.本アプローチを研究代表者の所属する大学のネットワークトラフィック予測に適用したところ,精度の向上が実現された.今後は,本アプローチの演算量の削減方法を考察することが必要である.
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