研究概要 |
本研究では,新技術であるCAGE(Cap Analysis Gene Expression)法によって得られた発現プロファイルに基づくトランスクリプトーム解析手法に関する研究を行った.遺伝子の転写制御・発現調節メカニズムがいかに多様であるとはいえ,転写制御・発現調節メカニズムが類似した遺伝子は存在しており,そのような遺伝子の発現プロファイル間にはなんらかの形で共通するパターンが見られる可能性がある.従来の発現量のみに注目した発現プロファイルに対し,CAGEでは発現量に加え正確な転写開始点の情報が得られるため,このデータを用いることで発現プロファイルとゲノム上の位置を関連付けて解析することができるのが利点である. 本年度は,CAGEを用いた選択的スプライシングの解析手法を開発した.選択的スプライシングは同じ遺伝子から複数のバリエーションのタンパク質(アイソフォーム)が生成される現象のことで,この現象は生物の複雑性が増すにつれて頻繁に見られるようになり,マウスでは65%以上の遺伝子で観測されている.また,発生段階や組織など環境に応じて,時間的・空間的に選択的スプライシングを制御することによってアイソフォームを作り分けている例が知られており,発現の多様性や制御ネットワークのメカニズムを解明する上で重要であると考えられる.本手法では,まずESTやcDNAなどの情報を用いて,各遺伝子のスプライシングの構造をグラフによってモデル化する.次にCAGEの情報を付加して最尤推定アルゴリズムを用いることで,各遺伝子の組織特異的な選択的スプライシングの推定を行った.またこの手法をマウスゲノムに対して適用し,新たな知見を得た.
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