研究概要 |
脊椎動物の脳は組織化された層構造を成しており, 特定の神経細胞が特定め層に投射する。したがって脳の正確な層形成は、脳機能の現出に不可欠な現象である。ニワトリ胚中脳では、その発生初期には数層の層構造しか認められないが、成熟すると16もの層を有する。この層形成にはNotchシグナル関連因子であるGrouchoがその一旦を担っていることが知られているが、詳細は不明である。層形成過程では神経細胞の細胞移動が起こるので、細胞移動や細胞接着に関わる因子であるephrin/Ephファミリーの遺伝子発現を調べたところ、そのうちのいくつかが層特異的な発現を示した。したがってephrin/Ephシグナルが層形成に深く関わっていることが強く示唆された。哺乳類を除く脊椎動物では、中脳は視覚中枢として機能している。網膜神経節細胞から伸長した視神経軸索は中脳に達すると位置特異的な投射を行う。さらにこれら視神経軸索は、表層にある特定の層にのみ投射する。この仕組みにもGrouchoが関わっていることが知られているが、詳細は明らかでない。本研究ではこの仕組みを調べるために、蛍光マーカーを用いて視神経軸索の投射パターンを詳細に調べた。その結果、いくつかの視神経軸索は表層だけでなく、より深層にまで伸長しており、しかもそれは一過的であることを発見した。このことは、視神経投射は初めから正確に成されるのではなく、標的を探りながら軸索は伸長し、標的に到達しなかった軸索は刈り込まれることで最終的な投射パターンが決定されることを示唆している。本研究によって、視覚中枢である中脳の層形成にephrin/Ephシグナルが関与していることが示唆されたとともに、視神経投射パターン形成に新たな知見が加えられた。
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