甘味は重要なエネルギー源である糖を感受する重要な感覚である。この感覚が、まず感覚神経細胞内でどのように情報が変換されるのか、すなわち糖が神経細胞膜上で受容された後に、どのような分子を経て神経細胞の興奮を引き起こすのかを明らかにすることが、当該研究の大きな目的である。 当該研究代表者は、これまでにショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用いて、味覚、特に糖受容に関連する分子の同定を行ってきた。その結果、ショウジョウバエにおいてトレハロースと呼ばれる二糖類の受容に関わる分子(Gr5a)、さらにその下流にあると思われるGタンパク分子(DGsα)の同定を行った。DGsαは、ほ乳類のGs分子と非常に相同生が高く、生化学的な解析からGs分子同様にcAMPとよばれる分子を産生するアデニリルサイクラーゼを活性化することが知られている。当該研究代表者は昨年度までにアデニリルサイクラーゼの1つの分子が、甘味受容に関わっていることを示した。すなわち、この遺伝子の欠失や発現抑制により、甘味に対する行動学的および電気生理学的な応答性が低下することを、突然変異体や遺伝子組換え体を用いて明らかにした。本年度は、アデニリルサイクラーゼに対する阻害剤や活性化剤によっても、糖に対する応答性が変化するのか否かという薬理学的な解析を行った。最終的にこれらの結果は、European Journal of Neuroscienceという雑誌に受理された。
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