本研究期間中、反対方向に動く二つの運動視信号が同時に提示されたときに生じる、運動視方向知覚の変化と、それに随伴する眼球運動の変化について詳細に調べる4種類の実験を行った。第一の実験では、単服運動視と両眼運動視という二つの運動視処理メカニズムに注目し、両者の運動視信号が矛盾する全く新しい錯視刺激を開発した。そしで、刺激提示時間に依存して、知覚方向が変化するという現象を発見した。第二の実験では、スリット視という刺激提示法を拡張した、コントラスト反転スリット視という刺激提示法を独自に開発した。この刺激提示下では、さまざまな方向の運動視信号が混在するが、方向判断課題やそのときの眼球運動応答を計測することで、競合する運動視信号を一つに統合するメカニズムの一端が明らかになった。第三の実験では、反対方向に動く2種類の運動方向で定義されたチェッカーパターンを作成し、眼球運動の変化をモニタすることにより、被験者がどちらの図地パターンを図と判断しているか判定する実験手法の開発をおこなった。第四の実験では、「顔」と「家」など全く異なるカテゴリーの画像を二つ用意し、quadrature motionと呼ばれる画像処理方法を利用して、両者にそれぞれ反対方向に動かす運動視信号を付加する刺激提示手法を開発した。刺激観察中、「顔」の和覚と「家」の知覚が反転するが、眼球運動をモニタすることで、どちらの知覚が意識されているか判定できるという実験手法の開発を行った。本研究の最終目標は、運動視信号と図地分化過程を結びつけ、眼球運動応答を手掛かりに、図地分化過程の意識への関わりを解明することにあった。研究期間中、運動視と眼球運動応答の関わりの解明について重点が移ってしまったが、眼球運動応答を利用した、知覚状態の推定までは達成しており、その研究成果は国際学会や国際論文誌へ発表することができた。
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