研究概要 |
物体認識に重要な輪郭情報は、明るさの違いのみならず、テクスチャーやコントラストの差異で定義される場合がしばしばある。しかし、後者の輪郭を検出する機構はよくわかっていない。本研究では、テクスチャー境界検出のための初期視覚野(V1, V2野)の受容野構造を詳細に調べる研究を行った。過去の研究から、多くの細胞は、光刺激に興奮応答する領域(古典的受容野とよばれる)を中央にもち、その周囲に呈示された刺激から抑制を受けることが知られている。このうち、古典的受容野の空間構造はその詳細がすでに明らかにされ、この領域だけではテクスチャーの処理は行えないことがわかっている。そこで、本研究では、申請者が最近開発した新しい高次受容野解析手法を麻酔不動化したネコV1野細胞に適用して、古典的受容野および周辺領域の両方の構造を高次受容野として詳細に求める研究を行った。高次受容野を測定するために考案したコントラスト変調刺激とよばれる視覚刺激にたいする応答を測定した81個の細胞のうち、35個の細胞で受容野構造を再構成することに成功した。その結果、多くの細胞が、古典的受容野と周辺領域が同じ向きに伸びた空間構造をもつことがわかった。このような構造は、細胞がテクスチャーの境界の向きを検出するのに役立つ。また、これらの構造が伸びる方位は、細胞によって縦、横、斜めなどさまざまであった。以上の結果は、テクスチャーに基づく視野領域の分割は、周辺抑制をもつ初期視覚野の細胞群がテクスチャーの境界情報を系統的に伝達することで行われることを示唆している。この成果は、2008年度北米神経科学学会で発表、2009年(電子版は2008年)に神経生理学において伝統ある標準的雑誌であるJ. Neurphysiology誌に掲載されたほか、現在もさらなる論文を準備している。
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