脱水時には体液のNaレベルが上昇する。生命を維持する上で体液のNa恒常性は重要であり、水分と塩分の摂取の制御と、腎臓機能の制御による排出の制御によって維持されている。申請者は、このうち塩分摂取の制御に関わる脳内Naレベルセンサー分子が電位依存性Naチャンネルと相同性のある分子Naxであることを明らかにしてきた。本研究では、体液Naレベルの情報が神経活動に変換される情報伝達経路について調べた。まず、Naxが感知した情報が伝達される経路を探った。その手がかりを得る目的で、Naxチャンネルの細胞内領域に結合する分子を探索し、Na+/K+-ATPaseのαサブユニット(α1及び2)が直接的に結合していることを明らかにした。この相互作用により、細胞外のNaレベル依存的にNa+/K+-ATPaseが活性化し、その結果、グリア細胞の代謝活動が亢進し、乳酸の放出につながっていることが判明した。SFOにおいてNaxを発現するグリア細胞は、主にGABAニューロンを取り巻いている。そこで、SFOのGABAニューロンの活動を電気生理学的に調べたところ、野生型マウスではNaレベルの増加によりGABAニューロンの活性化がみられたが、Nax-KOマウスでは応答がみられなかった。ところが、乳酸を投与した場合には、野生型マウス、Nax-KOマウスのいずれのGABAニューロンも活性化した。以上の結果から、正常なSFOにおいては、グリア細胞のNaxが体液Naレベルの上昇を感知すると、その情報が乳酸を介してGABAニューロンに伝達され、塩分摂取を促す神経活動の抑制が起きると考えられる。以上、脱水時の体液Naレベルの増加が塩分摂取行動の制御につながる脳内機構の大筋が明らかとなった。
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