機能的な神経回路網形成の基盤は、発生期において多様な機能をもつ神経細胞の個性の獲得とそれに続く細胞移動や軸索伸長が適切に行われることにある。後者の過程にはnetrinなどの分泌性軸索誘導分子が重要な働きを持つ。我々は以前、発生期マウス脊髄背側部の細胞がnetrin1をある特定の時期にのみ局所的に発現することが、一次求心性神経(DRG)線維の適切な軸索投射に重要であるということを新たに明らかにした。その発展として、本研究はnetrin1の時期・領域特異的な発現調節機構の解明を目的とした。平成19年度は、netrin1を一過性発現する細胞の同定と胎児期初期マウス脊髄スライス培養系の確立に取り組んできた。その結果、脊髄背側部netrin1発現細包がマウス胎生(E)10.5〜11.5日目に背側脊髄の腹側部で生まれ、E12.5に脊髄背外側部まで移動する神経細胞であることを明らかとした。さらに脊髄背側部の細胞移動様式の解析を行う過程で、E9.5〜E10.5に脊髄背側部で産生され、腹側脊髄まで移動を行う転写因子Olig3系譜神経細胞が、腹側正中部で発現するnetrin1により制御されている可能性が考えられた。そこで、netrin-1^<-/->;Olig3^<lacZ/+>やDcc^<-/->;Olig3^<lacZ/+>(Dcc;netrinレセプター)の解析を行った結果、これらのノックアウトマウスでOlig3系譜細胞の移動に著しい異常がみられた。さらに組織片培養、ニワトリ胚を用いたエレクトロポレーション法により脊髄腹側正中部由来のnetrin-1がOlig3系譜細胞に対して誘引的に作用していることが明らかとなった。近年、脊髄背側部の複雑な細胞移動パターンが明らかとなってきているが、その移動制御機構についての知見はほとんどなく、本研究の重要性は高いと考えられる。
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