研究概要 |
発生期において、多様な機能をもつ神経細胞の個性の獲得とそれに続く適切な細胞移動や軸索伸長が、機能的な神経回路網形成に重要となる。後者の過程にはnetrinなどの分泌性軸索誘導分子が重要な働きを持つ。我々は以前、発生期マウス脊髄背側部の細胞がnetrin 1をある特定の時期にのみ局所的に発現することが、一次求心性神経(DRG)線維の適切な軸索投射に重要であるということを新たに明らかにした。その発展として、『本研究ではnetrin 1の時期・領域特異的な発現調節機構の解明、さらに脊髄の神経回路形成におけるnetrin 1の広範な機能を明らかにすることを目的とする。平成20年度は、脊髄回路形成におけるnetrin 1の新たな機能について中心に解析を行った。まず一つ目として、発生初期に脊髄背側部で産生された介在神経細胞の一部は、正接方向状に移動し、腹側脊髄まで達するが、この移動が腹側正中部で発現するnetrin 1により制御されていることを明らかにした。この結果は現在論文投稿中である。今後はこの神経細胞が脊髄内でどのような機能をもつ神経細胞であるかを同定することを試みている。二つ目として、体性感覚を伝達するDRG神経細胞は軸索を脊髄へと投射させるが、その投射が脊髄から脊髄外に分泌されたnetrin 1の影響により制御されていることを明らかとした。この結果はThe Journal of Neuroscience(vol.28, 10380-10385, 2008)に掲載された。これらの結果から、脊髄の神経回路形成におけるnetrin 1のさらなる重要性が明らかとなった。
|