久保山は、脊髄損傷部位周辺で再生不全に陥った軸索先端部(dystrophic endball)を再現した培養系を用い、dystrophic endballが前方への移動を停止する分子的原因を探る目的で本研究を行ってきた。平成19年度までに、プロテインキナーゼA(PKA)阻害剤を処置することにより、dystrophic endballが前方への移動を再開することを明らかにした。さらにその際、dystrophic endballにおける細胞接着斑の形成不全が正常化することが示唆された。そこで平成20年度は、dystrophic endballが前方移動不全となる原因分子を、細胞接着斑に着目して同定することを目指した。 P21-activated kinase(PAK)は、paxillinのリン酸化を介して細胞接着斑形成を調整するタンパクであり、PAKの活性はPKAにより負に制御される。Paxillinのリン酸化模倣体を神経細胞に発現させた結果、非リン酸化模倣体を発現させた場合に比べ、プロテオグリカン濃度勾配を横切る軸索の長さが増加(軸索再生)した。また、非リン酸化模倣paxillinを発現させた神経細胞に対してPKA阻害剤を処置しても軸索再生が促進されなかった。以上のことから、PKAの下流でpaxillinのリン酸化が制御される結果、dystrophic endballの前方移動が促進されることが示唆された。次年度は、dystrophic endballの軸索伸長不全・再開における細胞接着斑形成制御の役割を分子的に明らかにする予定である。さらに、リン酸化模倣paxillinを発現する神経細胞の軸索再性能を、脊髄損傷動物で解析する予定である。以上から、細胞接着の制御を介した軸索再生不全の機序について、分子レベル及び個体レベルで明らかにする。
|