久保山は、脊髄損傷部位周辺(プロテオグリカン濃度勾配下)において再生不全に陥った軸索先端部(dystrophic endball)を再現した培養系を用い、dystrophic endballが前方への移動を停止する原因を探る目的で本研究を行った。これまでに、プロテインキナーゼA(PKA)阻害剤を処置することにより、dystrophic endballが前方への移動を再開することを明らかにした。さらに、細胞接着斑構成分子であるpaxillinのリン酸化模倣体を発現させた神経細胞では、非リン酸化模倣体を発現させた場合に比べ、プロテオグリカン濃度勾配を横切る軸索の長さが増加することを明らかにした。そこで本年度は、PKA阻害及びpaxillinのリン酸化によるdystrophic endballの前方移動再開の機序を明らかにすることを目指した。全反射蛍光顕微鏡を用いてpaxillinのライブイメージングを行い、細胞接着斑の形成制御を解析した。リン酸化模倣paxillinを発現させた神経細胞では、非リン酸化模倣paxillinを発現させた場合に比べ、正常な軸索終末部における細胞接着斑の形成・脱離のターンオーバー及び軸索伸長が増加した。 Dystrophic endballにPKA阻害剤を処置した場合、処置前に比べて細胞接着斑の形成・脱離のターンオーバーが増加した。一方、非リン酸化模倣paxillinを発現させたdystrophic endballにPKA阻害剤を処置した場合、処置前に比べて細胞接着斑の形成制御に変化がなく、前方移動再開も阻害された。以上、PKA阻害によりpaxillinがリン酸化され、細胞接着斑形成が制御されることにより、dystrophic endballが前方移動を再開すると考えられた。本研究により、軸索再生における細胞接着斑形成制御の重要性が初めて示された。
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