神経可塑性の調節に重要な構造体であるシナプス後肥厚PSDには、種々の蛋白質複合体が形成されるが、その際蛋白質間結合を仲介する特有のアミノ酸モチーフの存在が知られている。本研究課題は当該アミノ酸モチーフを指標に、神経機能に関与しうる新規蛋白質を同定することを目指している。平成21年度は、既に前年度までに神経系で発現していることを確認した蛋白質に対して、RNAi法を用いた機能阻害を試みた。ノックダウン効率が高いRNAが特定できた因子から順に解析の優先順位を決め、順次初代培養系の海馬神経に導入し、スパインの形成や形態変化に与える影響を検討した。抗体を作成していた分子の中で平成20年度では未解析であった蛋白質に関しても発現細胞を解析したところ、脳特異的発現を示し、神経細胞に発現する新規膜タンパク質を同定した。この分子に関し結合蛋白質をスクリーニングしたところ、細胞質ドメインにNF-_κB経路に関わる分子が結合することを見出した。NF-_κB経路は炎症に伴う免疫反応を仲介する細胞内シグナル伝達系の要であることから、脳神経系と免疫系との関わりを解明する上で重要な蛋白質を同定したと言える。一方、前述のアミノ酸モチーフが機能的であるか否かの判定基準についてもさらなる考察を進めることで研究課題全般の確実性向上を目指した。新たに開発したプログラムでゲノムデータベースを解析したところ、当該モチーフは蛋白質中に一様に(確率的に)分布するものではなく、蛋白質の末端に偏って存在するという特性を有することを突き止めた。さらに、これを判断基準とすることで、モチーフが機能的であるか否かを判定する方法を提唱した。また、この方法によりある種のウィルスの細胞毒性の強弱が推定できる、という予想外の発見があった。神経可塑性に関わる新規蛋白質を同定しただけでなく、より広範囲な科学分野に影響を与えうる発見に至った。
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