将棋局面の認知、記憶、思考の脳メカニズムが、習熟度の違いによりどのように異なるかを調べていくために、本研究では将棋盤面知覚処理過程を主にfMR Iを用いて調べる。本年度は、fMR I実験の準備として、将棋盤面知覚処理と記憶に関わる心理物理実験を行った。 将棋盤面知覚処理に関わる心理物理実験では、将棋の序盤、終盤、でたらめ配置の3種類の局面を提示し、実戦でありうる駒配置/でたらめの判断を求めた。提示時間を1000ミリ秒、500ミリ秒、200ミリ秒、100ミリ秒、30ミリ秒と短くしたところ、アマ上級者(4段、10人)は500ミリ秒までは安定に高い正答率で正答したが、アマ中級者(初段、6人)では500ミリ秒から正答率が低下した。この結果は、棋力が向上するにつれて将棋盤面知覚処理が早くなることを示す。 将棋盤面記憶に関わる心理物理実験では、まず、プロの実戦譜から切り取った将棋盤上の一部分の駒配置、又はでたらめ配置を1秒間提示した。その2秒後に、駒が1つだけ配置された将棋盤を提示し(500ミリ秒間)、駒の種類と位置が最初に提示された駒配置に含まれていたかどうかの判断を求めた。ひとつの駒配置に対し、10個の異なる問いを繰り返した。将棋の序盤から取った駒配置の場合は、アマ上級者、中級者はともに8〜9割正答した。また、ランダム盤面での正答率は、アマ上級者、中級者ともに同じくらい低かった。終盤の駒配置では、アマ上級者の正答率はランダム盤面での正答率よりも有意に高かったが、アマ中級者ではランダム盤面と同じくらい悪かった。このように、アマ上級者はアマ中級者に比べ、終盤盤面の記憶において優れていた。 今年度の心理実験から、アマ棋士の棋力によって、将棋盤面の知覚処理と記憶の能力に違いがあることを確認した。現在、fMR Iを用いて、アマ上級者と中級者で、将棋盤面の知覚処理の際の脳活動にどのような違いがあるかを調べている。
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