本研究では将棋プロ棋士とアマチュアを対象にして、将棋局面の認知、記憶、思考の脳メカニズムが習熟度の違いによりどのように異なるかを主にfMRIを用いて調べる。本年度は短時間最善手決定における尾状核頭部と大脳皮質連合野領域との機能的結合の解析を行った。 将棋局面の知覚実験においてプロ棋士の頭頂葉内側部の楔前部が活動するとの結果を得て、平成21年度の報告書において報告した。楔前部はチェスや中国将棋などのゲーム一般である程度活動するが、プロ棋士では実戦にありうる将棋局面で特に強く活動した。これらの大脳部位と大脳基底核の尾状核頭部の機能的連関を調べるために、短時間最善手決定実験における試行ごとの活動のばらつきの部位間相関を調べた。尾状核頭部の関心領域(Region of Interest : ROI)は構造画像の上で決定し、大脳皮質のROIはそれぞれのグループの機能画像上で決定した。各試行における信号の大きさから試行間の平均値を差し引いて得た試行ごとの信号のばらつきを脳部位間で比較して相関係数を計算した。プロ棋士においては、尾状核頭部(Caudate)の信号と前頭連合野外背側部(DLPFC)の信号の間、および尾状核頭部と楔前部(Precuneus)の間で、短時間最善手決定課題においてコントロール課題および読み課題におけるより有意に大きい正の相関があった。このような課題間の相関の大きさの違いはアマ棋士では見られなかった。また、短時間最善手決定課題におけるプロ棋士の尾状核頭部と前頭連合野外背側部の間の相関および尾状核頭部と楔前部の間の相関は、アマ棋士の相関よりも有意に強かった。
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