研究概要 |
本研究ではニワトリ網膜水平細胞をモデルに、転写因子が神経細胞のサブタイプ特異的な形態形成にどのような役割を持らか明らかにすることを目指した。昨年度の研究でホメオボックス型転写因子であるLim1とIsllet(Isl1)がそれぞれ水平細胞のサブタイプ特異的に発現している(Lim1 : タイプI細胞、Isll1 : タイプII, III細胞)ことを見出し、このうちLim1はタイプI水平細胞の軸索形態形成に必要なことを示した。本年度は逆にそれぞれの転写因子を、形態形成が始まる直前から水平細胞で過剰発現させたときに、細胞形態が変化するかどうかを検討した。興味深いことに、細胞移動を終えた水平細胞でIsl1を過剰発現させると、本来Lim1を発現しているタイプI細胞をタイプII細胞に変化させた。遺伝子発現レベルでもタイプII細胞への変化が示唆された。これはIsl1には水平細胞分化の後期においてタイプII細胞への分化(樹状突起形態の形成、特異的な遺伝子発現)を促進する働きがあることを示している。また神経細胞のサブタイプは特定細胞層への移動前の、分裂が終了した時点で決まっていると考えられているが、この決定は固定されたものではなく、移動を終えた細胞でも外からの遺伝子導入によってサブタイプが柔軟に変化させられることを示唆している。Lim1に関しては過剰発現を行ってもサブタイプの比率は変化せず、Lim1はタイプI細胞の軸索形態形成に必要であるという昨年の結果と合わせてタイプI細胞でのみ機能すると考えられた。これらの結果は現在論文投稿中である。
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