コミュニケーションの場面において、ことばの意味は取り巻く状況(先行情報、心的状態、使用場面など)により変化しうる(語彙的曖昧性)。例えば、同じことばでも、相手がうれしそうに話しているときと怒って話しているときでは受け取り方は異なり、人によっても受け取り方はさまざまである。本研究では、感情的側面を含む言語理解の脳内処理を調べるために、脳磁界計測法(MEG)を用いた研究を行った。実験では、プライミングパラダイム(プライム : 感情音声、ターゲット : 視覚単語)を用いて、先行する感情的文脈が後続する単語の処理にどのような影響を与えるのかを調べた。ターゲットは感情的に中立な単語であるが、先行する感情音声の種類によって受け取り方が異なると予想される。ターゲット処理時において全被験者に共通して活動した脳部位は、左半球の下前頭後部、上側頭後部・縁上回、腹側後頭側頭部・紡錘状回、両半球の側頭前部、内側側頭前部、後頭部であった。そのうち、左下前頭後部、左側頭前部、左腹側後頭側頭部・紡錘状回は先行の感情音声による脳活動の差がなかったことから、これら左半球のネットワークの活動は感情的文脈によらない言語の中心的意味を理解するために働いていることが示唆された。一方、右側頭前部、左上側頭後部、両側の内側側頭前部は感情音声による脳活動の差が認められたことから、これら左右半球を結ぶネットワークの活動は、感情という言語の周辺情報を利用(統合)した意味の理解に関わっていることが示唆された。
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