コミュニケーションの場面において、ことばの意味は取り巻く状況により変化しうる(語彙的曖昧性)。例えば、同じことばでも、相手がうれしそうに話しているときと怒って話しているときでは受け取り方は異なるように、ことばの解釈は多義的であり感情的情報の影響を受ける。本年度は、昨年度に引き続き、感情的情報に応じた言語理解の脳内処理を調べる脳磁界計測(MEG)研究を行った。実験は昨年度に完了しており、本年度はその結果をまとめて論文を執筆し国際雑誌に投稿したが、査読の結果、受理には至らなかった。査読者二名から共通して、統計処理に関する問題点を指摘されたため、それを踏まえてデータの再解析を実施した。その結果、感情的文脈は右半球の下前頭後部および中前頭後部で形成・保持され、視覚言語呈示後300ミリ秒後付近で文脈の利用が開始すること、さらには、その文脈情報は左半球の下前頭後部へ伝達され、400ミリ秒後付近からその情報をもとに言語解釈が行われていることが明らかになった。また、後頭部、左側後頭側頭部・紡錘状回、左上側頭後部・下頭頂部、左側頭前部は、先行する感情的文脈によって活動に差がなかった。先行研究では、上記部位はそれぞれ、初期視覚処理、視覚形態処理、音韻処理、語彙的意味アクセスに関与していることが報告されていることから、本研究の結果は、これらの処理が感情的情報の処理と独立して行われていることを示唆する。以上の成果は新たに論文としてまとめ、国際雑誌に投稿して現在査読中である。
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