脳の機能は遺伝情報によってプログラムされた発生過程を経て形成した神経回路およびその集積からなる層構造によって実現する。ショウジョウバエ視覚中枢のメダラ神経節は幼虫期において4種の転写因子の発現によって同心円状に区画化されており、それぞれの転写因子の発現によって区別される神経細胞が変態の過程で大幅に移動し、成虫においては全く異なる配置を示す。メダラ神経細胞は最終的にメダラ皮質と呼ばれる層構造を形成することから、メダラは脳の層構造形成機構を理解する上での優れたモデルと成りうる。メダラ神経節の発生を一貫して解析するため、平成19年度は4種の転写因子をコードする各遺伝子に対するGal4ノックイン系統の作製を試みた。今回採用したEnds-out法と呼ばれる方法では予想以上に効率が悪かったため、信頼性の高いノックイン系統を作出することができなかったが、一部の遺伝子に関しては発現を正確に再現するGal4系統を得ることができた。また、メダラの発生において重要な役割を果たす新たな因子を網羅的なin situハイブリダイゼーションおよび抗体染色によって探索し、その結果幼虫期メダラ神経細胞の一部(例えば背側特異的もしくは腹側特異的)で発現する分泌性因子および転写因子を見出した。このことから、メダラは同心円方向だけでなく、背腹軸方向にも区画化されており、これらの組み合わせによって多様な神経細胞が生み出される可能性が示唆された。
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