大脳新皮質の神経細胞は、発生期に胎児脳の脳室に接する脳室帯で最終分裂を終えて誕生し、脳表面側へ移動する。個々の神経細胞はこの移動の過程を経て適切な神経細胞層に配置して、大脳新皮質の神経回路網を形作る。このため、大脳新皮質の構築を理解する上で発生期に行われる神経細胞の移動を制御する機構の解明は不可欠である。従来、大脳皮質の神経細胞は、細胞体トランスロケーションと、放射状グリアを足場として移動するロコモーションの二種の移動様式のいずれかを使って移動すると考えられてきた。しかし最近、ほぼ全ての移動神経細胞は中間帯及び脳室下帯において約24時間留まり、第三の移動様式である『多極性移動』の段階を経て脳表面側へ移動することが明らかになった。しかし、多極性移動を制御する分子機構と大脳新皮質を構築する上での発生学的役割は明らかでない。 申請者は、脳室下帯に特異的に発現することが既に報告されている転写産物Svet1が多極性移動細胞に特異的に発現することを見出した。そのためSvet1は多極性移動を制御する候補分子の1つであると考えられたが、Svet1は蛋白質をコードする領域を持っていなかった。そこでSvet1の染色体上での構成の解析を行い、Svet1がUnc5dの核内primary RNAに含まれることを見出し、またUnc5dとUNC5D蛋白質が多極性細胞に特異的に発現することを明らかにした。UNC5は、軸索ガイド分子であるネトリンの反発性シグナルを伝える受容体であることから、多極性移動する細胞が脳室下帯に留まる現象に関与する候補分子である可能性が示唆された。このため多極性移動におけるUNC5Dの機能解析を起点に、今後大脳新皮質形成における多極性移動の役割が明らかになることが期待される。
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