研究概要 |
大脳新皮質は、6層の神経細胞層で作られており各層は同様な機能と形態的特徴を持つ神経細胞で構成され、大脳新皮質の最も基本となる機能ユニットとして神経回路を作る基礎になっている。神経細胞層は、発生期に脳室に接する脳室帯で最終細胞分裂を終えた神経細胞が、脳室下帯で多極性移動を経て脳表面の方向に向けて移動することで形成される。申請者は、脳室下帯に特異的に発現する転写産物Svetlの染色体上での構造を解析する過程で、Uncsdが多極性細胞に特異的に発現することを見出した(Shinji Sasaki, etal. Mol Cell Neurosci. 2008)。UNC5は、軸索ガイド分子であるネトリンの反発性シグナルを伝える受容体であることから、申請者は「多極性細胞は細胞表面に発現するUNCsDでネトリンのシグナルを受容して、脳室下帯にいったん留まり、その後移動を再開する」との作業仮説を立てその検証を行った。多極性細胞の移動におけるUNC5Dの役割について検討するため、子宮内造伝子穿孔法を用いて、胎児脳にUNC5Dの優性阻害型(ドミナントネガティブ型)蛋白質を発現するプラスミド、あるいはUNC5Dに対するsmall interfering RNA(siRNA)を発現するプラスミドを導入して機能阻害実験と発現抑制実験をそれぞれ行った。この2つの実験系によって、多極性細胞が皮質板に侵入する移動過程をネトリンとUNC5Dが制御することが明らかになった。 本研究は、多極性細胞の移動を制御する細胞外シグナル分子の実体として、初めてネトリンとUNC5Dの関与を明らかにした。本研究の成果は、多極性神経細胞の移動を制御する分子メカニズムの一端の解明にとどまらず、今後大脳新皮質の形成における多極性神経細胞の役割を検討する上で、大きなヒントを与えることが期待される。
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