網膜幹/前駆細胞の作出源として虹彩組織細胞に注目し、虹彩組織の免疫組織染色を行ったところ、神経幹/前駆細胞マーカーの1つであるNestin陽性の細胞が存在し、その細胞は研究代表者の山本が注目しているNerve growth factor receptor p75(p75NGFR、CD271)を共発現していることを発見した。次に従来から神経系幹細胞の培養方法として知られているNeurosphere法で虹彩組織細胞を培養したところ、Sphereを形成した細胞はNestinとp75NGFRが陽性の細胞であった。しかし、虹彩由来細胞は、Neurosphere法では継代培養することができないことが分かった。そこで、接着培養法で培養した虹彩由来細胞をp75NGFRで分離し、レチノイン酸を用いて分化誘導することで、網膜神経細胞への分化誘導を検討したところ、視細胞、水平細胞、双極細胞などの細胞マーカー陽性の細胞に分化させることができた。しかし、これらの細胞は、分化誘導過程において一部の細胞が死滅してしまうこと、p75NGFRで分離した細胞は、ほとんど増殖させることができないことが分かった。そこで、現在、p75NGFRのパスウェイにおいて、アポトーシス経路ヘシフトすることを防ぐため、阻害剤による細胞死からのレスキューを検討している。今後、この細胞死からレスキューできるようになることで、より効率的な網膜神経細胞への分化誘導が可能になるため、今後も継続的な研究を行う。なお、虹彩由来細胞を網膜障害マウスの網膜組織に移植したところ、移植細胞の一部は神経様細胞の形態に分化し、網膜組織内で生着していた。一方、ヒト虹彩組織の培養とp75NGFRによる網膜幹/前駆細胞の分離に成功しており、一部の網膜神経細胞への分化誘導にも成功している。今後、ヒト虹彩組織を用いた網膜再生研究も平行して実施していく。
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