【目的】脳におけるアポリポ蛋白E(アポE)による自然免疫制御機構を調べる。平成20年度は平成19年度に引き続きアポEがToll様受容体4(TLR4)下流シグナル経路の活性化を抑制する機構の詳細を調べた。さらに、アポEによる炎症抑制効果が他の細胞種、他のTLRファミリーにおいて見られるかを確認した。 【方法】RNAiを作用させたミクログリアまたはマクロファージ細胞でアポEによる炎症抑制効果があるか調べ、TLR4経路制御機構に関わる蛋白質を検索した。アポEがTLR4以外のTLRファミリーからのシグナル経路の活性化を抑制する能力を持つか調べた。 【結果】LDL受容体、LRPのいずれかあるいは両方のRNAiを作用させた細胞やLDL受容体欠損マウス由来マクロファージ細胞において、アポEによる炎症抑制効果に変化はなかった。しかしスカベンジャー受容体BのRNAiを作用させた細胞において、アポEによる炎症抑制効果は減弱していた。アポEによる炎症抑制効果は既知アポE受容体であるLDL受容体、LRPではなくスカベンジャー受容体Bを介していると考えられた。 さらにApoEはTLR3のアゴニストであるPolyI : CおよびTLR2のアゴニストであるペプチドグリカン刺激によるp38MAPキナーゼの活性化を抑制したが、TLR7のアゴニストであるImiquimod刺激によるp38MAPキナーゼの活性化を抑制しなかった。また、アポEによる炎症抑制効果はマウスマイクログリア細胞だけでなく、ヒト細胞やマクロファージ細胞でも見られた。 【まとめ】アポEはLPSによるTLR4シグナル伝達経路の活性化を抑制することで炎症性サイトカインの分泌を負に調節することがわかった。この経路にはこれまで知られているアポE受容体ではなく、スカベンジャー受容体Bが関与していた。アポEはTLR3、TLR2の下流経路の活性化も抑制した。
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