メチル水銀を用いた曝露実験は様々な動物種において行われている。特にラットを用いた実験が多く、末梢神経および小脳に病変が形成されることが知られている。しかし、マウスにメチル水銀を投与した場合の病変形成については未だ不明な点が多い。研究代表者のこれまでの研究により、マウスにメチル水銀を投与すると行動学的に自発運動量が増加し、病理学的には線条体にアストログリアの増殖を伴う神経細胞壊死が認められることが分かった。平成20年度は線条体の傷害程度を病理学的により詳細に検索し、マウスに認められた行動学的異常との関連性を検討した。また、曝露期間および濃度により生じる病理変化および臨床症状の差異も合わせて明らかにすることを目的とした。 メチル水銀を曝露されたマウスの線条体において主に傷害される細胞は小型神経細胞であり、比較的大型の神経細胞はよく保たれていた。行動学的に自発運動量が大幅に増加する個体においては同時期に線条体障害が強く認められ、自発運動量が軽度に増加した個体では線条体障害が軽度であった。よって、線条体障害が強くなるのに伴って自発運動量が増加することが示唆された。曝露するメチル水銀濃度を変えることで臨床症状発症までの時期は変わるものの、惹起される病変は変わらなかった。 ヒト・コモンマーモセット・ラットにおいてメチル水銀を曝露された際には小脳の小型神経細胞が傷害されることがよく知られている。マウスにおいては同様に小型神経細胞が傷害されるものの、小脳ではなく線条体の小型神経細胞が傷害されることは興味深く、マウスを用いたメチル水銀曝露実験はメチル水銀による細胞傷害メカニズムの解明に一助となる可能性がある。
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