メチル水銀を用いた曝露実験は様々な動物種において行われている。特にラットを用いた実験が多く、末梢神経および小脳に病変が形成されることが知られている。しかし、マウスにメチル水銀を投与した場合の病変形成については未だ不明な点が多い。研究代表者のこれまでの研究により、マウスに短期間・高濃度メチル水銀を投与すると行動学的に自発運動量が増加し、病理学的には線条体にアストログリアの増殖を伴う神経細胞壊死が認められることが分かった。よって、自発運動量の増加は線条体病変と関係することが明らかとなった。また、マウスにメチル水銀を長期間・低濃度投与することにより行動学的に記憶能の低下が認められた。しかし、病理組織学的には大脳皮質における軽度の神経細胞数の減少の他に明らかな記憶能低下を示唆するような所見は認められなかった。 本年度は前年度までにマウスを用いて実施した短期間・高濃度メチル水銀曝露実験および長期間・低濃度メチル水銀曝露実験において未実施である病理組織検索のAutometallography法を実施した。Autometallography法は無機水銀を病理組織標本上で可視化することが出来る手法であり、投与されたメチル水銀が脳内で無機水銀へと変化した際の分布を明らかにすることが出来る。短期間・高濃度曝露実験モデルにおいては、曝露期間が短かったため脳内でのメチル水銀の無機化の量が少なく可視化されたのは線条体のアストログリアなどわずかであった。長期間・低濃度曝露実験モデルにおいては大脳小脳など脳内全域の神経細胞・ミクログリア・アストログリアに軽度に瀰漫性に分布していた。脳内において無機化された無機水銀は脳内に広く分布しており、病変部位との関連は認められなかった。今後は脳内におけるメチル水銀の分布を可視化できる手法を開発し研究を推進したい。
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