申請者は、これまでに、脳神経系においてSrc型キナーゼによりチロシンリン酸化される新規のタンパク質NYAPファミリーを同定し、これらが神経細胞においてpl3K/Akt経路にいたる最も重要なハブとして機能している可能性を示した。平成19年度の研究において、NYAPを発現する神経細胞のサブタイプを明らかにし、さらにマウス脳においてNYAPのproteome解析をおこない、NYAPがPl3-kinaseのみならず、細胞骨格系調節分子群とも会合することを明らかにした。平成20年度はこれら基礎的実験データをもとにNYAPの生理機能の全貌を明らかにすることを目的として研究を遂行し、以下の結果を得た。 1. チロシンリン酸化反応は特定の受容体の刺激後に見られることが多く、NYAPも何らかの受容体刺激後にリン酸化されると推定してきたが、これまでに調べた多くの神経栄養因子群はNYAPのチロシンリン酸化には無関係であった。平成20年度の研究においては、数多くの神経接着因子を培養細胞の系を用いて合成-精製して調べ、GPIアンカー型のcontactin familyの神経認識分子がFyn-NYAPfamily-Pl3K経路の上流に位置することを明らかにした。 2. これまでにNYAPファミリーは大脳皮質錐体神経細胞の形態を制御していることを明らかにした。平成20年度は.神経細胞において樹状突起の形態形成に至る分子メカニズムおよび細胞レベルでの基盤の解明を試み、RhoAおよびRac1の関与、さらにはある種の細胞内小器官の局在変化が、樹状突起の形態形成に影響を及ぼしている可能性を示唆するデータを得た。 3. NYAP欠損マウスの行動学的解析をおこない、NYAPファミリー遺伝子多重欠損マウスは育児行動に異常がみられることを見出した。
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