研究概要 |
昨年度までの研究において,単純ヘルペスウイルス1型接種により作製された帯状庖疹痛モデルマウスの脊髄後角においてBDNFの発現が上昇することを見出した。また,帯状庖疹痛マウスの疼痛反応は,抗BDNF抗体,抗trkB抗体,およびtrkB/Fcキメラタンパクの脊髄くも膜下腔内投与により抑制されることを見出した。本年度の研究では,帯状庖疹後神経痛へのBDNF/trkBシグナリングの関与を明らかにすることを目的とし,下記のような結果が得られた。 (1)帯状庖疹後神経痛への移行にBDNF/trkBが関与するか:帯状疱疹痛マウスの脊髄くも膜下腔内にtrkB/Fcキメラタンパク質を投与し,帯状庖疹後神経痛への移行におよぼす効果を検討したところ,対照群と比較して移行するマウスの例数が減少した。したがって,帯状庖疹痛マウスの脊髄後角において発現の増大したBDNFが,trkB受容体を介して帯状庖疹後神経痛の発症に関与していることが示唆された。現在,帯状庖疹後神経痛への移行におよぼす,trkB受容体の下流の分子を探索中である。 (2)アストロサイトにおけるBDNF産生メカニズム:温度感受性SV40大型T抗原遺伝子導入による不死化アストロサイト細胞株を樹立し,ATPによるBDNF mRNA発現上昇メカニズムを解析した。ATPはアストロサイトに存在するP2Y受容体に作用し,細胞内Ca^<2+>の上昇,CaM kinaseおよびCREBの活性化を誘導しBDNF遺伝子プロモータを刺激することでBDNF mRNAの発現を増大させるメカニズムを明らかにした。このようにBDNFの発現メカニズムが明らかになったことで,この経路の阻害するいずれかの薬物が帯状庖疹痛の治療薬および帯状庖疹後神経痛の予防薬になる可能性が示唆された。
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