研究概要 |
前年度までの研究において, 単純ヘルペスウイルス1型接種により作製された帯状疱疹痛モデルマウスの脊髄後角においてBDNFの発現が上昇すること, 帯状疱疹痛マウスの脊髄後角にBDNF抗体, trkB/Fcキメラタンパク質を投与すると, 帯状疱疹後神経痛の発症率が有意に抑制されることを見出した。したがって, 帯状疱疹後神経痛への発症には, 脊髄後角におけるBDNF/trkBシグナリングが重要な役割を担っていること示唆された。本年度はBDNF/trkBの下流に存在する分子をGeneChipシステムによる網羅的遺伝子発現解析法により探索した。帯状疱疹痛マウスの脊髄後角において, 578遺伝子の発現が増加した。これら発現が増大した遺伝子のうち, 187遺伝子の発現がtrkB/Fcキメラタンパク質の投与により抑制された。帯状疱疹痛マウスにおいて50倍に増加し, trkB/Fc投与により発現が1/2に抑制された遺伝子Aについて注目し, その発現部位を免疫染色により調べたところ, ミクログリアに発現していることが明らかとなった。したがって, アストロサイトやミクログリアで産生されたBDNFが, ミクログリアに存在するtrkB受容体に作用し, 遺伝子Aの発現を増大させていることが示唆された。現在, 他の遺伝子も鎮痛薬のターゲット分子となる可能性を考え, 詳細に検討中であるとともに, この遺伝子Aが帯状疱疹後神経痛の発症に関与するかどうか, アンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNAを投与して検討中である。
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