カリクレインファミリーに属する細胞外セリンプロテアーゼニューロプシン(NP;KLK8)は、大脳辺縁系の海馬や扁桃体に局在しており、神経活動依存的に活性化し、そのタンパク分解活性は海馬長期増強現象や記憶形成過程に重要な役割を果たしている。活性型リコンビナント(r-)NPを海馬内に投与すると、神経突起の伸長およびシナプス伝達の増強に伴うシナプスの成熟化が誘導されるが、その詳細な分子メカニズムは明らかではない。近年、これらの機構にNPを介した細胞接着分子L1の切断機構が関与することが報告された。そこでまず私は、マウス脳ホモジネイトにおいて、NPによるタンパク分解作用、新規L1全長認識抗体Y3を用いてウエスタンブット法により調べた。その結果、L1とは異なる分子量120kDaのバンドが検出され、興味深いことに、このフラグメントは、r-NPによって速やかに分解され、新たに37kDaのバンドが現れた。この120-kDaタンパク質を、Y3抗体を用いて精製後、LC-MS/MSにより解析したところ、神経細胞の形態変化および神経突起の伸展に関与する膜結合タンパク質Gprotein-Regulated Inducer of Neurite outgrowth 1 (GRIN1)であることがわかった。実際、マウス脳ホモジネイトにおけるY3抗体の免疫沈降産物を、抗GRINI抗体でブロットしたところ、120kDaの位置に陽性反応を示した。また、マウス脳ホモジネイトにr-NPを投与し、GRIN1のプロテオリシスを調べたところ、r-NPの濃度および時間依存的に分解され75kDaと37kDaのフラグメントが遊離された。さらに精製したr-GRIN1とr-NPを反応させたところ、r-GRIN1は速やかに切断された。以上のことは、GRIN1がNPの新規基質候補であることを示す。
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