細胞外セリンプロテアーゼニューロプシン(NP)のプロテアーゼ活性は、記憶の獲得や長期増強の誘導に密接に関与する。これまで我々は、活性型リコンビナント(r-)NPを海馬スライスに投与すると、長期増強が増大するなどのその生理機能を示してきたが、NPがシナプスにおいてどのような分子に作用するのかはわかっていない。r-NPはそのタンパク分解活性によって基質タンパク質を部分分解してしまうため、複合体として検出することは困難である。そこで、NPの活性中心を変異させたミュータントNPを用いることによって、基質タンパク質と結合した状態を作り出す。作成したミュータントNPは、合成基質VPR-MCAに対して、その酵素活性を示さず、また昨年NPの基質候補として同定したGRIN1に対してもその切断活性は見られなかった。さらにこのミュータントNPは、野生型のr-NPに比べ、Km値が有意に低かった。今後は、このミュータントNPを用いた免疫沈降法によって、その結合タンパク質を獲得する。また、ミュータントNPが基質タンパク質と細胞上で結合するかどうかを確認するために、海馬初代培養細胞にミュータントNPを発現させその局在を調べた。まず、野生型およびミュータントNPの細胞内局在はほぼ変わらず、両者とも細胞体および神経突起に局在していた。次に、神経活動を亢進させた後、NPの局在を調べた。興味深いことに、NPは神経突起にドット状に検出され、このことはNPが細胞外に分泌していることを示唆する。今後は、細胞外に分泌したニューロブシンが細胞膜上に存在すると考えられる基質タンパク質と結合するのかを免疫染色によって確かめる。
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