本研究は神経疾患モデルマウスを用いて、てんかんの一種である欠神発作(小発作てんかん)の発症機序を解析したものである。実験に用いたtotteringマウスは、脳神経系の主要な電位依存性カルシウムチャネルの一つであるCa_v2.1(P/Q型)カルシウムチャネルのα_12.1サブユニット遺伝子に変異を持ち、小脳失調症に加え欠神発作を示す。脳波的特長や抗てんかん薬に対する感受性の類似性から、totteringマウスの欠神発作は、ヒトの欠神発作のモデルとして研究に用いられてきた。これまで欠神発作の病態メカニズムに関しては、視床と大脳皮質の連携の問題であると考えられている。しかし、シナプス伝達という観点から視床-大脳皮質連関の異常を積極的に探索した研究は報告されていない。そこで私は、視床と大脳皮質の結合が含まれる脳スライス標本を用いてスライスパッチクランプ法により、興奮性シナプス特性について検討を行った。最初に視床刺激して誘発されるAMPA受容体電流を大脳皮質IV層細胞で記録した。その結果、totteringマウスは野生型マウスと比較してAMPA受容体電流に変化は認められなかった。しかし、視床-大脳皮質投射シナプスにおけるAMPA受容体に対するNMDA受容体の電流比において有意な増大が見られた。さらに、totteringマウスは野生型マウスと比較してNMDA受容体電流の電位依存性が過分極側でわずかにシフトしていた。本研究により欠伸発作モデルマウスであるtotteringマウスにおいてNMDA受容体電流がてんかん発作時に見られる過興奮に関与していることが示唆される。
|